わたしにしか見えない君に、恋をした。
「えっ。嘘でしょ……」

全身ビショビショになって呆然と呟くと、湊が「流奈、お前すっげぇ運悪いな!ドンマイ!!」とあたしの肩を励ますようにポンポンッと叩いた。

もとはといえば、湊が傘をたためと言い始めたことが原因だ。

それなのに自分は知らん顔して……――!!

許せない!!

あたしは湊に両手を伸ばした。

湊はなぜかあたしに触れられるらしい。

今まで湊に触れようとしたことはなかった。

もしかしたら、あたしも湊に触れられるかもしれない。

「なんだよ」

右腕を両手でつかまれた湊は不思議そうにあたしを見つめる。

「ふふっ。やっぱりね」

予想通り湊の体に触れることができた。

初めて触れた湊の腕は思ったよりもがっしりしていて少しだけドキッとした。

雨に打たれることもなく、服には水滴が一粒もついておらず、髪も全く濡れていない。

幽霊だから当たり前と言えば当たり前だけど、あたしは一つの賭けに出た。

湊の腕をグイグイ両手で引っ張って大きな水たまりの前まで連れてくる。

「流奈、お前もしかして俺にやりかえそうとか思ってんの?だったらやるだけムダだぞ」

「だって悔しいじゃん。あたしばっかりやられてるんじゃ」

「バーカ。俺を見てみろよ。髪も服も靴も全然濡れてないだろ?水たまりに落とそうとしたってムダ……――」

その時、湊が不思議そうな表情を浮かべた。

それを無視して湊の腕を力いっぱい両手で引っ張ると、湊の足が水たまりに落ちた。
< 35 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop