わたしにしか見えない君に、恋をした。
「――って、うわっ。マジかよ!!」

湊が弾かれるように水たまりから飛び出して、自分の足を確認する。

「なんだよこれ。超きもちわりー」

「えっ?」

しきりに足元を気にする湊。靴に視線を移して、ハッとした。

靴はぐっしょりと濡れ、肩と頭にもわずかに水滴らしきものが付いている。

「な、なんで!?さっきまで濡れてなかったのに!!」

「しらねぇよ。うわぁ、マジかよ。どうすんだよ、これ!!」

湊が慌てふためき顔を歪めている。

あたしは思わずブッと吹き出した。

「あははは!!すごい焦ってる~!超うけるんだけど!!」

「おい、流奈!!笑ってる場合じゃねぇから。お前、帰ったら責任もって俺の靴と靴下洗えよ!?」

「はぁ!?なんでよ~!自分で洗ってよ」

「無理だろ。水が触れねぇんだから」

「ふーん。だったら、そのままほおっておけば?明日ぐらいには生乾きになって臭くなっちゃうかもね。臭いままであたしに近付かないでね?」

「ハァ?うぜー」

唇を尖らせる湊がおかしくて思わず笑顔が漏れる。

「つーか、流奈。手貸して」

「なんで?」

「いいから」

すると、湊はなぜか突然真剣な表情であたしに左手を差し出した。

その手をギュッと掴むと、湊は空を見上げる。

その瞬間、湊の体に大粒の雨が降り注いだ。

「……やっぱりそうか」

「え?」

「俺、流奈に触れているときだけ、現実世界とほんの少しだけ繋がってるらしい」

「どういうこと?」

「流奈と触れてないときは、雨が降っても濡れなかったのに、流奈と触れているときは雨で体が濡れた。水たまりに入って靴が濡れたのもきっとそのせいだ」
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