わたしにしか見えない君に、恋をした。
「雨の中、傘も差さずに歩くのってなんか気持ちよくね?」

「こんなことしたの初めてだけどね」

「マジか。流奈、人生損してるって」

「別に損なんてしてないって。ていうか、今日が最初で最後だと思うし」

「なんで?」

「だって、こんなにびしょ濡れになって帰ったらお母さんに怒られるもん」

「……まぁ、そうかもな」

前髪からぽたぽたと滴り落ちる水滴。

湊があたしの顔を覗き込んでくすっと笑う。

「ひっでー顔だな」

「湊こそ。前髪ペタンってなってるよ?」

「いや、流奈のほうがひどいだろ?目の下真っ黒だし」

「えっ!?嘘!!本当に?」

お互いの顔を見つめていると、なぜか急に笑いが込み上げてきた。

「ぶっ!」

「笑うんじゃねぇよ。つーか俺、そんな変な髪型になってんのか!?」

おでこに張り付いた前髪を必死でかきあげている湊。

「今更かっこつけなくたっていいじゃん!!」

「うるせー」

「このほうがいいって」

背の高い湊の髪につま先立ちして手を伸ばしてくしゃくしゃっとかきまぜる。

「あははは!!ボサボサなんだけど」

「うわ、マジうぜー」

ぐちゃぐちゃになった湊の髪の毛を見てケラケラと笑うあたしと必死に髪を直す湊。

その時、前から大学生と思われるお姉さんがこちらに向かって歩いてきた。

傘もささずに歩くあたしに気付いたのかぎょっとした表情を浮かべる。

「俺が流奈に触れられること忘れてんだろ?」

「それがなに?」

すると、湊があたし両手首を掴んでぐいっと上に引っ張った。

万歳の格好になったあたし。

「ちょっ、なに!?」

「さっきの仕返し」

お姉さんがあたしの前までやってきた瞬間を見計らって湊はあたしの手首を左右に揺すった。
< 38 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop