わたしにしか見えない君に、恋をした。
――誰かから嫌われるのは怖い。
――ひとりぼっちになるのもいや。
――悪口を言われていじめられたくない。
――ハブられたら学校に行けなくなる。
とにかく、平凡でいい。平和な学校生活を送りたい。
それが本音。
発言力のある子のそばでそれらしくうなづいて笑っていればいい。
リーダー格の子が右を向いたら右を向く。
左を向いたら左を向く。
みんなと同じようなものを持ち、みんなと同じようにふるまう。
一人だけ違うことはできない。
少しでもその輪からはみ出すようなことをすればそれは命取りになる。
八方美人と言われようが、今の居場所を守るためにそんな努力は惜しまない。
それが、学校という狭い空間にいるあたしの防衛手段だから。
多分、みんなそうでしょ?好き勝手にふるまっていられるのは一部の人間だけ。
あたしみたいなその他大勢はそうやって均衡を保っている。
もう中学の時のように傷付きたくない。
あの日まであたしは平凡に過ごしていた。
でも、その平凡は一瞬で崩れ去ってしまった。
仲間外れになっている子をかばっただけ。
『悪口やめようよ。みんなで仲良くしようって』
ただそれだけ。それを言っただけ。
それだけであたしの居場所はなくなった。空気読めよって責められた。
その出来事で悟った。
傷付かないためには今何をしたらいいのか先回りして考えて、みんなの顔色を伺って、誰にでもいい顔をしなくちゃいけない。
怖かった。居場所を失うことが。
ただひたすら、怖かった。