わたしにしか見えない君に、恋をした。
『流奈がよく行く場所に連れて行ってほしい』

それが湊の願いだった。

手を繋いで色々な場所に行けば、湊はあたしを通して自分を知る新たな手掛かりが見つかるかもしれないと考えていた。

といっても、よく行く場所なんて思いつかない。

バイトもしていないし、部活にも入っていないし……。

平日はほとんど家と学校の往復。

サエコやナナと一緒に街へ繰り出すこともあるけれど、毎回決まった場所に行くわけじゃない。

思い出の場所もこれといってない。

「湊と初めて出会ったのも学校の屋上だし、学校に何かヒントが隠されてるかもしれないね」

「確かに」

「じゃあ、まずは学校に行ってみようか?」

あたしと湊は手を繋いだまま学校を目指して歩き出した。

「あっ、サッカー部が部活やってる……」

学校の前に着くと校庭の方から声がした。

視線を向けると、大勢のサッカー部の生徒が掛け声をかけながら校庭をランニングしていた。

うちの部はこのあたりでも有名なサッカーの名門校だ。

サッカー部に入ったとしてもレギュラーになれる選手はほんの一握り。

先輩後輩など関係なく、プレー技術の高い選手がレギュラーになれるとあって、互いをライバル視しながらみんな必死に練習に打ち込んでいた。

その中の一人に、あたしの弟もいた。

「あっ、愁人もいる」

ひときわ体の大きな愁人は遠目でも目立っている。

高一には思えない高身長はお父さんゆずりだ。

「……シュート?」

「シュートじゃなくて、愁人(しゅうと)っていう名前なの。お父さんが昔からサッカー好きだったから」

「あぁ、それで」

納得したように頷く湊。

「つーか、流奈って弟いたんだ?」

「えっ、なに?一週間もいたのに知らなかったの?」

「兄弟がいるのは知ってたけど、顔とか名前までは。昼間は流奈の部屋にしかいかないし、夜はリビングにしかいかないから。他の部屋に勝手に入るのも微妙だろ。プライバシーの侵害だし」

「……っていっても、最初あたしの部屋に勝手に入ってきたじゃん」

「それはそれ、これはこれ」

「すぐへりくつ言うんだから」

湊はしばらく校庭を走るサッカー部に目を向けていた。
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