わたしにしか見えない君に、恋をした。
「サッカーが手掛かりなら、サッカー部のほうに行ってみようか?校庭とかサッカーゴールとか見たらまた何か思い出すかも」

「だな」

あたしは湊と手を繋いだまま校庭を目指して歩き出した。

校庭に着くとタイミングの悪いことにサッカー部の部員が休憩に入っていた。

顔を洗いに手洗い場まで行く人、木の陰で寝転ぶ人、ボトルの水を一気飲みしている人。

その時、首にかけたタオルで汗を拭きながら歩いていた愁人があたしの存在に気が付いた。

一瞬だけびっくりしたような表情を浮かべた愁人は慌ててこちらへ駆けよってきた。

「姉ちゃん、こんなところで何してんだよ!?」

「ん?ちょっとサッカー部の見学しにきた」

適当にこたえると、愁人は眉間にしわを寄せた。

「ハァ?サッカーなんてこれぽっちも興味ないくせにどういう魂胆だよ。つーか、マジでさっさと帰ってよ」

「別にみてたっていいじゃん」

「だから、ダメなんだって!!早く帰れって!!」

なぜか焦っているように見える愁人。

「あたしがアンタのお姉ちゃんだって知られるのがそんなにいやなわけ?アンタのチームメイトもとっくにみんな知ってるから」

「だから、そういうんじゃなくて……――!!」

愁人がそう言いかけた時、ポンッと肩を叩かれた。

「……金山先輩……」

「こんにちは、流奈ちゃん」

振り返るとにっこりと笑う金山先輩が立っていた。

「休みなのにどうしてこんなところにいるの?」

「あっ、えっと……ちょっとブラブラしてただけで特に深い意味はなくて」

さっきとは違う風に答えるあたしに愁人が非難の目を向ける。

「なんだ。てっきり俺のこと見に来てくれたのかと思っちゃったよ。私服姿も可愛いね」

「あー、ははっ。どうも……」

ふっと笑みを浮かべる先輩につられてあたしは苦笑いを浮かべる。
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