わたしにしか見えない君に、恋をした。
金山先輩は女子から人気がある。

二重のぱっちりとした瞳、サラサラの髪の毛。

真っ黒に日焼けした肌がとても健康的。

だけど、あたしはどうもこの先輩が好きになれなかった。

理由はいくつかある。

自信満々で馴れ馴れしいのも嫌だけど、一番は弟の愁人に対する態度だった。

金山先輩は中学の時から愁人を目の敵にしていた。

その卑劣な行為は誰が見ても分かるぐらい露骨に行われていた。

後輩は大勢いるのに愁人にだけが大量の荷物を持たせていたり、練習試合中にミスをしたのか陰でこっそりと愁人の脇腹に拳を叩きこんだり。顔を腫らして帰ってきたことだってある。

愁人は父の影響で3歳からサッカーを始めた。

小学生になって地元のサッカークラブに通いだしてから、愁人の才能に芽が出た。

メキメキと上達した愁人は中学時代、県代表メンバーにも選ばれ将来を有望視されている。

高校だってサッカーの実力を認められてスポーツ推薦で入学した。

もちろん、一人だけ一年からレギュラー。

三年でようやくレギュラー入りした先輩にはそれがおもしろくなかったのかもしれない。

決定的だったのは、体育館倉庫の裏で先輩が『一年でレギュラーだからって調子に乗ってんじゃねぇぞ』と口汚い言葉で愁人を罵り恫喝し、平手打ちしているのを目撃したことだ。

愁人は金井先輩を見ると、途端に委縮して顔をこわばらせる。

あたしの知らないところで愁人はこの人にどんな嫌がらせを受けているんだろう……。
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