わたしにしか見えない君に、恋をした。
「ねぇ、流奈ちゃん。よかったらサッカー部のマネやらない?」

「マネージャーですか?」

「そうそう」

「……マネってもう3人ぐらいいませんでしたか?」

強豪校で注目され、イケメンの多いサッカー部のマネージャーは競争率が高いらしい。

「まぁいるはいるんだけど、ちょっとね」

「ちょっとってなんですか?」

「もう少しだけ顔がよかったらいいんだけどさぁ……。正直ルックスがいまいちなんだよねぇ」

「マネージャーにルックスって関係あります?」

「あるに決まってるよ。他校との試合の時、マネージャーの質が悪かったら試合に勝ってもなんかスッキリしないし。逆に試合に負けてもマネが可愛い子だと勝った気になるから」

マネージャーにルックスを求めている先輩の気がしれない。

試合に負けても可愛いマネがいれば勝った気になる?

アンタ、何のためにサッカーやってんの?

一生懸命練習して、試合に臨んでいる他のチームメイトにも申し訳ないと思わないんだろうか。

しかも、そんなことをぺらぺらと得意げになってあたしの前で話すなんてバカもいいところだ。

心の中で毒を吐く。

あたしの隣にいる愁人も微妙な表情を浮かべていた。

「雑用は今のマネに任せて、流奈ちゃんは他校との公式戦の時にベンチに座ってスコアでも記録してよ。それならいいでしょ?」

そんなことできるわけないじゃない。

悪びれる様子もない先輩に苛立つ。

「こいつ、最悪だな。俺、こういう奴大っ嫌い」

あたしにしか聞こえない湊の呟き。

うん、わかる。あたしもこの男大っ嫌い。

心の中で湊にそう答えてからあたしは「はっ!」と大げさに声を上げた。

「あっ、そうだ!これから用があったんだ!!じゃあ、あたしはこれで」

「流奈ちゃん、もう行っちゃうの?」

「先輩たちもそろそろ休憩終わりみたいですよ!ほらっ、愁人。早く戻りな」

「あぁ。姉ちゃん、またな」

背中を向けて駆けていく愁人に『頑張って』と心の中で声をかける。

どんなに金山先輩に意地悪をされても挫けず、泣きごと一つ言わない強い愁人が誇らしい。

きっといつか報われる日が来るから。だから、頑張れ。頑張れ、愁人。

「流奈ちゃん、また時間があったら練習見に来てね?」

「はい。先輩もがんばってくださいね」

ニコッと笑って先輩に頭を下げると、あたしは先輩に背中を向けて歩き出した。

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