わたしにしか見えない君に、恋をした。
「流奈を危険にさらしてまでおれは自分が誰か知りたいとは思わない」

「だけど……――」

「マジ、やめてくれよ。頼むから――」

湊はかすれた声で言うと、あたしの手首を掴んだ。

すっと引っ張られて一歩踏み出すと、湊の腕があたしを包み込んだ。

右手はあたしの腰を。左手はあたしの頭を。

湊は体全体であたしを抱きしめる。

泣きそうになった。湊の腕の中が想像以上に温かかったから。

体中に広がる湊の体温。あたし達二人の体温が溶け合っているみたい。

「俺がこの世界にいるなら流奈を助けることができる。でも、俺は流奈を通してしかこの世界と通じることができない」

「湊……」

「もし流奈に何かあっても、俺は自分の手で流奈を守ることも支えてやることも助けてやることもできない」

あたしを抱きしめる湊の腕に力がこもる。

湊の気持ちが痛いほど伝わってきて目頭が熱くなる。
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