わたしにしか見えない君に、恋をした。
「これで種目決めを終わりにします。もしどうしても何かの理由で変更がある場合は言ってください」

クラス委員長の言葉に心臓を鷲づかみにされたように苦しくなる。

結局、あたしはその後のじゃんけんにことごとく負け続け、クラス選抜のリレー選手に選ばれてしまった。

HRが終わり、帰り支度を始めるクラスメイト達。

あたしは席から立ち上がることができず呆然としていた。

運動は昔から苦手だ。

球技はそこそこいけるけれど、走るのはダメ。

今回と同じようにじゃんけんで負けて選ばれた小学校の運動会のリレー。

あたしのクラスは途中までダントツの1位だった。

『絶対に1位のまま次の子までバトンを繋げなくちゃ。転んだら絶対にダメ。絶対に』

気負いながらバトンを受け取り走り出したあたしは、案の定派手に転んだ。

バトンが前方に吹っ飛ぶ。

ヤバい!!早く……早くしなくちゃ!!

膝から血が出ていることも気にせずにハイハイの姿勢でバトンを拾い上げる。

細かな砂利が手のひらに食い込むことも気にせずに走り出そうとしたとき、無様なあたしの横を2位と3位の選手が悠然と追い抜いていった。

立ち上がってその二人を追いかけるものの、ケガをした足で速く走れっこない。

それでもあたしは、必死だった。必死になって歯を食いしばって走り続けた。

けれど、ついにはバトンを受け渡す直前で4位の選手にも抜かれた。

そこからの記憶は正直ない。

そのことがトラウマになり、ピストルの音を聞いただけで手のひらに嫌な汗をかく。

『大丈夫だよ』とか『しょうがないよ』とあたしを慰めてくれたリレーメンバーが陰であたしの悪口を言っていたのも知っている。

『ごめんね。本当にごめん……』

みんなに泣きながら謝るあたし。

今もたまにその夢を見る。目が覚めると、枕はいつも涙でぬれていた。
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