わたしにしか見えない君に、恋をした。
「委員長だってどうしても何かの理由がある場合は交換してもいいってさっき言ってたでしょ?」

「そうだけど、リレーに出たい人なんていないって」

最終競技のリレーにはプレッシャーもかかるし、よっぽど足に自信がある人以外交換してもいい人なんているはずがない。

それに、出たい人がいなかったからあたしがじゃんけんに負けて選ばれちゃったんだし。

適当なことを言うサエコにイライラがピークに達する。

「出たい人じゃなくたっていいじゃん。押し付けちゃえば」

けれど、サエコの一言で体中がスーッと冷えていくのを感じた。

「押しつける……?」

なにそれ。やだ。そんなのいやだよ。

「そうだよ。リレーに出たくないなら代わってもらっちゃばいいじゃん?」

「む、無理だよ。代わってくれる人なんているはずないって」

そう言ったとき、サエコが口の端を意地悪く持ち上げた。

「いるじゃん、適役が」

「え?」

「そうだよ~!!明子に押し付けちゃいなって。アイツ、確か二人三脚だったよね~?」

ナナがサエコに同調する。

明子に……押し付ける?

そんなことできるはずがない。

「そ、そんなのダメでしょ。ていうか、それじゃ明子が可哀そうだって」

あたしがそう言った途端、さっきまで笑顔を浮かべていた二人の顔から笑顔が消え失せる。
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