わたしにしか見えない君に、恋をした。
「うちら友達だよね?」

「……うん」

「あたし、明子に傷付けられたんだよ。友達だったらやり返してくれるよね?」

真っ直ぐあたしを見つめて言うサエコ。

あたしがここで拒否すれば、もう二人とは一緒にいられない。

居場所がなくなってしまう。そうなったらあたしは……――。

――ひとりぼっちになってしまう。


「……――分かった。言ってくる」

あたしがそう答えると、二人は目を見合わせてニコッと笑った。

「だよね~。流奈ならそう言ってくれるって思ってたし」

「でしょ。流奈がうちらを裏切るわけないし」

二人の会話が頭に入ってこない。

「じゃ、早く言ってきて?あたし達、ここで見てるから」

「えっ……。あたし、ちゃんと代わってっていえるから先に帰っていいよ?」

「大丈夫だから、早く行ってきなって」

あたしがちゃんと明子に言いに行くか見ているつもりらしい。

「うん……」

重たい気持ちを抱えたまま立ち上がり帰り支度をしていた明子に歩みを進める。

心臓がバクバクと震えて、指先が小刻みに震える。
周りの音が遮断され、目の前がかすむ。

「……明子」

声が上ずる。

名前を呼ばれた明子は顔を上げた。

あたしの姿を確認して目を丸くする明子。

今までずっと教室の中で声をかけることはなかった。

いつだってサエコとナナの目があったから。

声をかけられた明子は驚きと喜びと様々な感情がまじりあったような目であたしを見つめる。

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