わたしにしか見えない君に、恋をした。
「流奈ちゃん、何?」

「あのね、ちょっと……お願いがあるんだ」

「お願い?」

「そう。体育祭の種目であたしリレーに出ることが決まったんだけど……」

「うん」

「明子、二人三脚だったでしょ?それで……」

そこまで言いかけて言葉に詰まる。

これを言ってしまえばきっともう後戻りはできない。

あたし、これから最低なことをいおうとしてる。

『二人三脚とリレー代わって』って。

もしも明子が『嫌だ』と拒んでも、サエコとナナは簡単に引き下がったりしないだろう。

何だかんだと理由をつけて明子をリレーの選手に押しやるのが目に見える。

あたしは……それでいいんだろうか。

自分が嫌な競技を明子に押し付けて、自分は楽な競技に出る。

自分の嫌なこと全部明子に押しつければ、サエコとナナはあたしを見直してくれるだろう。

一緒にいてくれる。3人でいられる。居場所は保たれる。

あたし、ズルい。ズルすぎる。

明子に押し付けるなんてダメだって分かってる。

だけど、心のどこかではリレーに出なくても済むかもしれないという期待が胸を過る。

サエコとナナに言われたから仕方なくやっているだけだと、自分に必死に言い訳してる。

自分でもどうしたらいいのか分からずにそのまましばらく視線を足元に落として考えていると、明子が「流奈ちゃん」とあたしの名前を呼んだ。

< 90 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop