わたしにしか見えない君に、恋をした。
「私、代わるよ?」

明子の言葉に顔を上げる。

「私がリレーに出るから、流奈ちゃんは二人三脚に出て?」

優しく微笑みながらそう言う明子。

「ちょっ、ちょっと待って。どうして……」

まだ頼む前だったのにどうして……?

「こうみえて中学の時は陸上部だったの。意外と足、速いんだよ?」

「でも……」

「じゃあ、帰るね。また明日」

ずっとしゃべっていなかったのが嘘かのように普通に会話をして去っていく明子。

その場に残されたあたしのもとにサエコとナナが駆け寄ってくる。

「ねぇ、明子なんだって?」

ワクワクしたような表情を浮かべるサエコとナナ。

「代わってくれるって……」

「マジで~?よかったじゃん、流奈!!」

「でもさ、明子ってばなんか笑ってなかった?」

「……そう?わかんなかったけど」

そう答えるのが精いっぱいだった。

明子は……どうしてあたしが切り出す前に先回りしてあんなことを言ったんだろう。

心の中のもやもやが一層濃くなる。

「ていうか、明子ってば足遅そうじゃない?」

「ねっ。コケたらマジうけるんだけど!」

何が楽しいのか、サエコとナナがキャッキャと騒いでいる。

あたしはただぼんやりとさっきまで明子がいた席を眺め続けていた。
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