わたしにしか見えない君に、恋をした。
ペタペタと歩く上履きの音が廊下に響く。

窓の外からは拡声器を通した割れたような音も聞こえてくる。

10月だというのに窓から差し込む日差しはまだまだ強く、目を細めながら歩く。

教室の前に着き、わずかに開けた扉の隙間から教室の中を覗き込む。

そこには確かに制服姿の明子がいた。

自分の席に座り、窓の外をぼんやり眺めている明子。

声をかけなくちゃいけないのに、足がすくむ。

明子に合わせる顔も、かける言葉もない。

あたしは今までさんざん明子に嫌なことをしてきた。

たとえそれが自発的にではないとしても、あたしは明子を傷付けた。

その事実は変わらない。

でも、ここで逃げるわけにはいけない。

――ガタンッ。

扉にかけていた手を離したとき、音がした。

「……誰……?」

その声と同時にあたしはゆっくりと扉を開けた。

明子と目が合った。

「流奈ちゃんだったんだね」

その瞬間、明子はあたしの姿を確認してホッとしたように微笑んだ。

焦燥感が全身を包み込む。

どうして明子はそんなに優しい目をあたしに向けてくれるの。
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