居候同期とフクザツな恋事情
「ちょっと!急に止まらないで」
ぶつけた 鼻を摩りながら抗議すると、イオが険しい顔で振り返る。
「メェちゃん、しっ!」
「は?どうして?急に立ち止まるし意味わか― ―……」
「だから、静かにして。声大きい」
唇に人差し指をあてるイオを怪訝に見上げたら、突然横から肩を引き寄せられて、大きな手のひらで鼻ごと口元を覆われた。
力の加減なく押さえつけられて、ものすごく息が苦しい。
押さえ付けてくるイオの腕をバシバシ叩いてもびくともしないから、最後の手段で思いきり足を踏みつけたら、彼が口元を塞ぐ手を離す。
「メェちゃん、痛い」
「だって、急に人の酸素を奪うから」
ちょっと涙目になっているイオを冷たく見上げると、彼がマンションのほうを無言で指さした。
その指先に導かれるように視線を動かすと、エントランスの前にふたつの人影が見えた。
会社帰りと思われるスーツを着た長身の男の人と、その人を見上げて微笑む小柄な女の人。