赤い毒は愛の証
その言葉に雪は「そうなれたら私も嬉しいよ」と呟いた。二人で楽しく暮らしていくことを想像すると、胸がジワリと温かくなる。

家に帰っても、怒り狂う母親の視界に懸命に入らないようにする神経のすり減る時間しかない。もしも母親の怒りに触れてしまったら、何度目かわからない包丁を突きつけられるという恐怖の時間がやってくる。

「私はあの家ではいつ死んでもおかしくないもの。あんな家で死にたくない」

「雪はどんな風に死にたいの?」

誉が自室の扉を開け、雪を部屋の中に案内して訊ねる。お金持ちの御曹司というだけあって、おしゃれな家具が並べられている。ベッドも大きく、雪の使っているものより柔らかいだろう。

「私……死ぬのなら……」

雪はくるりと誉の方を向いた。誉は雪の言葉を待っていてくれている。そんな優しさに、雪は誉に抱き付いた。

「あなたの腕の中で死にたい」

雪は誉をまっすぐに見つめる。そして、優しく雪の背中に腕を回して言った。
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