その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
上司の事情と部下の事情
I
すっかり帰宅が遅くなり、疲れた顔で玄関のドアを開けたら、廊下の壁に凭れた広沢くんが不貞腐れた声で私を出迎えた。
「おかえりなさい。遅かったですね」
そういえば、早く帰る約束をしたんだっけ。
後ろ手にドアを閉めて苦笑いする私を、広沢くんが恨めしげな目でジッと見る。
「ごめんなさい。帰ろうと思ったら企画部長につかまって、話し込まれちゃって」
「企画部長に?」
「そう。本社との共同プロジェクトが決まったって。来週からしばらくのあいだ、プロジェクトのリーダーが本社から派遣されてくるみたいよ」
「本社との共同プロジェクト、ですか?」
「そう。明日の朝、企画部長から話があると思うけど、広沢くんはそのメンバーに入ってる」
そのことを伝えると、広沢くんの目が興味深げに輝いた。
「へぇ。企画部長に声をかけられたってことは、れーこさんもそのメンバーに入ってるんですか?」
広沢くんに期待するような目で見つめられて、私は小さく肩を竦めた。