その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
顔を顰めて、肩に置かれた手を払い除けようとしたとき、トイレのほうから出てきた菅野さんが、若手社員たちのグループに加わった。
私と大森くんに気付いた彼女が笑顔でこちらに会釈する。
「碓氷さん、大森さん、お疲れさまです。同じお店にいたんですね」
「うん。もう出るとこだったんでしょう?引き止めてごめんなさい」
菅野さんに話しながら、顔を背けてしまった広沢くんのことをチラッと気にかける。
彼の横にはいつのまにか、新城さんがやって来ていて。彼女に腕をつかまれて、なにか話しかけられていた。
それに対して、広沢くんが笑顔で言葉を返しているのを見て、なんだか複雑な気持ちになる。
私のことは、あんなふうに疑い深い目で見てきたくせに。
自分は他の女子社員とふたりで仲良さそうにしてるじゃない。
しかも、相手は噂をたてられている新城さん。
広沢くんと新城さんを視界の端に捉える私の眉間に、つい力が入る。