その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
いきなり、部下たちの……しかも、広沢くんの目の前で抱き寄せられるみたいな格好になって。
ただ、ただ、羞恥心しかない。
実際に、ほとんどの若手社員たちが、大森くんに抱き寄せられる私のことを珍獣でも現れたかのような目で見ていた。
広沢くんは……広沢くんがどんな顔をしていたか。それは、確かめる余裕がなかったけど。
きっと、変な誤解が深まったんじゃないかと思う。
「やめて。私はあなたと、そこまで親睦を深めるつもりはないから」
むしろ、大森くんとの親交は断絶させたい。苦手だから。今すぐに。
「相変わらず冷たいな、碓氷」
大森くんを押し退けて睨むと、彼が愉しげに笑う。
その笑い声を聞かされている私は、全く楽しくなかった。
「そうですね。せっかくおふたりで来られてるのに、邪魔しちゃ悪いですよね」
私たちのやりとりを見ていた菅野さんが、なにを思ったのかにこりと微笑む。