その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―


なにか、あらぬ誤解をされているんじゃないか。

主に私のことを見てにこにことする菅野さんに、そんな思いが湧き上がったけれど。

明確な指摘をされたわけでもないから、なにも言えない。

黙っていると、菅野さんが私と大森くんに笑顔で会釈した。


「じゃぁ、私たちはここで失礼しますね。お邪魔してすみません。お疲れ様でした」

「お疲れさまです」

菅野さんの言葉を合図に、他の若手社員たちも私たちに軽く挨拶をしてその場から去って行く。

私たちのそばを通り過ぎた何人かが、こちらを振り返ってコソコソと話しているのが見える。

さっき大森くんに肩を抱かれたことを噂されているのは明らかだから、ひどくゲンナリとした。

入社してから、そういうのとはまるっきり無縁できたのに。どうして……


まぁ、みんな普段の私を知っているし、大森くんはもう直ぐ結婚するから、たいした噂にもならないだろうけど。

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