その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
II
「碓氷さん」
桐谷くんに声をかけられて顔をあげる。
「資料のコピーできたんですけど、会議室に運べばいいですか?」
「ありがとう。じゃぁ、私も一緒に……」
別フロアにある会議室の鍵を持って立ち上がろうとすると、デスクの電話に内線がかかってきた。
「桐谷くん、ちょっとごめんなさい」
桐谷くんに断りを入れて内線に出ると、取引先から私宛に電話だという。
目の前に立ったまま指示を待っている桐谷くんを見上げた私は、電話を取り次いでもらう前に、彼に会議室の鍵を渡した。
「これで鍵を開けて、先に新城さんと一緒に作業をしておいてくれる?ページを間違えないように資料を纏めて留めたら、テーブルに一部ずつセットして置いて」
「わかりました」
会議室の鍵を受け取った桐谷くんが、私の目を見て頷く。
「私もすぐに行くからよろしくね」
真面目な顔付きの桐谷くんに笑いかけると、私は取り継がれた電話をとった。