その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―



「秦野さん、ヤキモチですか?」

「違うわよ。秋元くん、くだらないこと言ってないで仕事して!」

秦野さんがデスクから取り出した資料の入ったファイルを、ノートパソコン越しに秋元くんのほうに投げやる。


「それ、来週の会議で使う資料だから。目を通して纏めといてよね」

「え?これ全部?」

低い声で悲鳴をあげる秋元くんを、秦野さんが冷たい目で睨んでいる。

デスクの配置換えで席が近くなってから、秦野さんと秋元くんはいつもこんな感じだ。


「じゃぁ、広沢くん、秦野さん。お昼からよろしくね」

秦野さんと秋元くんのやりとりに苦笑いしながら、デスクに戻ろうとしていると、後ろから広沢くんが早足で追いかけてきた。


「碓氷さん。これ、あとでチェックお願いします」

すぐ真後ろに立った彼が、後ろから手を回して私の腕に資料を落としてくる。



「ごめん、れーこさん。今日、見えるとこにつけちゃった」

こっそりとささやく声が耳に届いたかと思うと、資料を離した広沢くんの指が、ものすごくさりげない動きで私の首筋を撫でて戻っていく。


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