その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
「単純に、好みじゃないんじゃない?新城のこと」
続けて聞こえてきた冷たい声も、なんだかいつもの桐谷くんらしくない。
「好みじゃないって、桐谷くんが?それとも、広沢さん?」
「俺もだし、たぶん広沢さんも」
「え、酷いなー。私、どこがダメ?」
新城さんの媚を売るような話し方に、桐谷くんが数秒黙り込む。
「そういうところ」
「えー」
抑揚のない、桐谷くんの冷たい返答に、新城さんが全くめげる様子もなくきゃきゃっと笑う。
「私みたいなのがダメならさー、桐谷くんはどういう人が広沢さんの好みなんだと思う?秦野さんは本人も否定してたし、違うでしょ」
「好み知ったら、それに合わせるの?」
「んー、できる範囲で?」
「新城にはムリだよ。絶対、広沢さんの好みには近付けない」
桐谷くんがピシャリとそう言い切ったあと、パチン、パチンとホッチキスを留める音だけが聞こえるほどに会議室は静かになった。