その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
それきり桐谷くんは黙り込んでしまい、ふたたびホッチキスを留める音だけが聞こえ始める。
新城さんがどんな表情を浮かべているのか、桐谷くんがなにを思って会話をやめたのか。
会議室の外にいる私に計り知れないけれど、何も聞かなかったフリをして中に入るには、少し心の整理が必要だった。
兎にも角にも、今年の新入社員はいろんな意味でなかなか手強い。
頭の中を一度冷静にして、深呼吸してから、会議室のドアをノックする。
「はーい」
声が聞こえてきたので外で待っていると、笑顔の新城さんが半開きのドアを全開にしてくれた。
「碓氷さん、お疲れ様です」
口角を引き上げて丁寧に挨拶をしてきた彼女は、初々しい雰囲気を纏った可愛い新入社員の女の子で。
さっき垣間見えた、腹黒そうな気配が一ミリも感じられない。
「作業進んでる?」
「はい、半分くらいは終わりました」
笑顔でそう応える新城さんは、さっき声だけ聞こえてきた彼女とはまるで別人みたいだ。