その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
◇
「れーこさん」
自宅の最寄り駅の改札を抜けて歩き始めたとき、後ろから足音が追いかけて、ぽんっと肩を叩かれた。
「広沢くん、電車一緒だったんだ」
「みたいですね」
振り向くと、横に並んだ広沢くんが嬉しそうに笑って私の手をとった。
「今日、仕事終わるの早かったんですね。気付いたられーこさんいなくなってたから、急いで仕事終わらせて帰ってきました。駅で会えてよかった」
広沢くんが私の顔を横から覗き込んで話しながら、繋いだ手に指を絡める。
仕事帰りにこんなの、いい年して恥ずかしい。
繋がれた手をチラッと見つつ、それを振り払おうとまでは思わない私も、感覚が少しおかしくなっているに違いない。
手元に視線を落としながら苦笑いする。
「せっかく駅前で会えたから、どこかでごはん食べて帰ります?」
広沢くんに聞かれて、どう答えようか少し迷った。
まさか、駅前でこんなふうに会うと思っていなかったから、今日は家でなにか作って彼のことを待っていようかなと思っていたのだ。