その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―


最近少し、ケンカみたいなことが続いていたから。そのお詫びも兼ねて。

でも、広沢くんが外で食べたいなら今日でなくてもいいかな。

黙っていると、広沢くんが私の顔をじーっと見てきた。

思わずドキッとして頬を痙攣らせると、広沢くんがにこっと笑う。


「それか、れーこさん、なにか作ってくれます?こないだ作ってくれた、ハンバーグおいしかった。卵のってたやつ」

広沢くんの言葉に、徐々に頬に集まっていく熱を抑えるのが難しかった。

どうして、私が家でなにか作ろうと考えていたことに気付くんだろう。

この人は、心の中が読めるんだろうか。

ときどき、本気でそう思う。


「買い物行かなきゃいけないけど、いい?」

そもそも、早めに会社を出てきたのはそのためでもある。


「もちろん。俺も手伝います。スーパー、向こうですよね?」

「でも、高校時代の調理実習でしか料理したことないんでしょ?」

広沢くんの優しい気遣いが嬉しいのに、気恥ずかしくて、つい意地悪く言葉を返す。


「あ、そうだった」

笑いながら応えた広沢くんが、家とは逆方向へと私の手を引っ張る。その空気が、どうしようもなく心地よかった。

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