その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
スーパーからの帰り。街頭の照らす夜道を、買い物袋を提げて歩く広沢くんは、機嫌が良さそうだった。
大森くんとのことは、今日のランチのときに誤解がとけているとは思うけど。広沢くんの機嫌の良さそうなときに、一応さらっと弁解しておいたほうがいいかもしれない。
「広沢くん、昨日のことだけど……なにも言ってなくてごめんなさい」
「大森さんと飲みに行ってたことですよね?前からの約束だったんですか?」
さらっと言い流してそれで終わり。そのつもりだったのに、振り向いた広沢くんの顔から、ふっと笑みが消えてしまった。
敢えて蒸し返さないほうがよかったのだろうか。
でも、そんな質問をされたら、なにも答えないわけにもいかない。
「約束してたわけじゃなくて、その場で急に誘われたの。大森くんて、誰彼構わずグイグイ来るでしょ。だから、昔から苦手なんだけど、誘いをうまく断れなくて……」
「ふーん。だけどれーこさん、その気のない誘いは結構バッサリ断っちゃうほうですよね?付き合う前だって、電話番号なかなか教えてくれなかったし。デートの誘いだって、何回目かでやっとオッケーしてくれたし」