その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―


「プロジェクトのメンバーになるのを断ったのは、新人教育のフォローのためだって言ったでしょ。それに私、大森くんのこと苦手だからプロジェクトに加わるのが嫌で……」
「苦手って、それ、れーこさんの本心ですか?」

マンションの目前で不意に立ち止まった広沢くんが、暗がりの中ジッと私の顔を覗き込む。

それから、ふっと自嘲気味に笑った。

いつも、先回りして私の気持ちを見透かしてしまう広沢くんが、今は私の言葉を信じていない。

それがはっきりとわかって、悲しくなった。


広沢くんは、彼が私との噂の対象になり得ない、なんて言ったけど、それは違う。

その反対で、広沢くんより8つ年上で、他部署からも厳しい上司だと評されている『私』が、彼との噂の対象になり得ないのだ。

実際に、新入社員の新城さんが、そのことをはっきりと口にしていた。

でもそれは全て、当事者の私と広沢くんの気持ちを無視した、部外者の評価だから。

悲しくなったり、落ち込んでも、なんとか喉の奥に押し込められる。

少なくとも、私は。

だけど……

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