その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
ツカツカと私のほうに戻ってきた広沢くんは、キーボードに置かれたままの資料を広いあげると、私に他所行きの笑顔を見せた。
「すみません。急いでたんで。以後、気を付けます」
「仕事中は、私情を挟まないで」
渡し直された資料の端をつかみながら、小声でささやく。
「碓氷さんこそ」
私に対抗するように、広沢くんも皮肉っぽく小声で返してきた。
なんなの、その態度は。私が悪いってこと……?
いろいろ思うところはあるけれど、無言で微笑みかけて、胸に湧き上がる苛立ちをグッと飲み込む。
その日はほとんど広沢くんに関わることはなかったけれど、たまに部署内ですれ違うときの私に対する彼の態度は悪かった。
そのくせ、たまに大森くんと話していると視線を感じるから、訳がわからない。
珍しく子どもみたいな態度をとってくる広沢くんは無視することにして、私も自分の仕事を片付けた。