その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
定時を30分ほど過ぎた頃、帰宅準備を整えた社員達の声で周りが少し騒がしくなった。
企画部長に直接頼まれた仕事をしていた私も、周囲の雑音に集中力が途切れる。
コーヒーでも淹れ直してあと少し頑張ろう。
デスクに置いたマグカップをつかんで顔をあげたら、広沢くんがちょうどデスクから立ち上がるところだった。
「広沢、今帰り?今から飲みに行かない?」
タイミングよくそばを通りかかった広沢くんの同期が、彼の肩に手を載せる。
今日は広沢くん、飲み会か。
いちおうケンカ中?だし、今日の社内での広沢くんの態度も大人気なくてどうかと思うけど。彼の動向は少し気になる。
昨日買ってきたハンバーグ用の合挽き肉は今夜なにかに使って、残りは冷凍しておかないと。この調子だと、当面出番はなさそうだ。
それか、ミートソースでも大量に作って、冷凍しておこうかな。
「悪い。俺、今回はパス」
食材の使い道を考えながら立ち上がったとき、広沢くんが誘いを断る声が聞こえてきた。