その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
「なに?なんか予定でもあんの?」
「そうじゃないけど。今彼女とケンカしてて、余計な誤解されたり、心配かけたくないから」
騒ついている社内に、広沢くんの声が大きく響いたからドキリとした。
マグカップをつかんだままデスクの前で固まってしまった私の耳に、広沢くんの同期の笑い声が聞こえてくる。
「なんだよ、それ。彼女とケンカしてんの?じゃぁ、彼女も一緒に行けばいいじゃん。えーっと……」
どっちだっけ、というふうに、広沢くんの同期がにやけながら、秦野さんと新城さんを交互にチラチラと見る。
「誰がテキトーな噂流してんのかしらないけど、違うから。俺が話してもないこと、間に受けるなよ」
それほど大声を出していたわけでもないのに、広沢くんの言葉に一瞬社内がシンとなる。
秦野さんや新城さんだけでなく、同僚たちの半分以上の視線を集めている広沢くんに、私がドキドキしてしまう。
思いの外、周囲に注目されたことで、広沢くんの同期は気まずげに左右に視線を泳がせていた。