その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
「だ、だよな。悪い」
「別にいいよ。お疲れ」
笑顔で同期の肩を叩いた広沢くんが、オフィスを去り際に私を振り返った。
僅かに表情を歪めた彼の切なげな瞳が、私を捕らえる。
だけどそれは、何秒にも満たない一瞬で。私の反応を待たないままにすっと逸らされてしまった。
ドアの向こうへと消えていく、広沢くんの背中に胸が締め付けられてギュッとなる。
もしかしたら、私から離れていった彼の背中はこのまま永遠にこっちを振り向かないかもしれない。
8つも年下の彼と付き合うことに決めたときから、その可能性はゼロではないと思っていた。
彼が私へ向けてくる気持ちは、気の迷いかもしれないと。付き合う前の彼を何度も突き放そうとしてきたのは、私のほうだった。
だけど……
今の私は、これまでみたいに彼のことを簡単に手放せる……?
自問する私の胸が、張り裂けそうな痛みで苦しくなる。
はっきりと口にしなくても、答えは出ている。
コーヒーを淹れ直す気力が失せてしまった私は、マグを置いてデスクの椅子に腰を落とした。