その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―





仕事を終えた私は、広沢くんのマンションの前に来ていた。

企画部長に頼まれた仕事がなかなか片付かなかったせいで、時刻はそろそろ22時。

ほとんど衝動的に来てしまったけれど、ここからどうすればいいのかわからない。

ふたりで会うときは、だいたい広沢くんがうちに押しかけてきたし。彼の家には誘われたときしか来なかった。

そもそも、恋人の家に自発的に乗り込むほどの衝動に駆られてしまったのが、この歳になって初めてかもしれない。

部屋番号は知っているけど、いきなりインターホンを押すのも気が引けるし。

やっぱり、とりあえず電話をかけてお伺いをたてるべきだろうか。

でも、ケンカ中だから出てもらえないかもしれない。

スマホを握りしめてうだうだと悩んでいるうちに、さらに夜が深まっていく。

こんな遅い時間に突然電話するのは迷惑だろうか。

でも、ここまで来て今さら帰れない。

迷いに迷った結果、もうどうにでもなれという思いで広沢くんの電話番号を選んでタップする。

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