その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
私が移動させた机や椅子を元に戻そうとしていると、新入社員の男の子のほうがそばに走り寄ってきた。
「碓氷さん、僕も手伝ってから戻ります」
そう言って、重そうな机を率先して運ぼうとしてくれるのは、桐谷くんだ。
真っ新なスーツで、にっこりと笑いかけてくる、その姿がとても可愛いくて、思わず顔が綻びそうになる。
「ありがとう。でも私のことは気にしなくて大丈夫。時間は限られてるから有効に使って、早く業務を覚えてね」
桐谷くんの態度があまりに新鮮で可愛いから、自分でも驚くくらい優しい声が出た。
私、今年の新入社員の子たちともうひとまわり近く違うのよね。
そりゃぁ、可愛く見えて当然だわ。
思わず苦笑していると、ふと横顔に視線を感じた。
見ると、広沢くんがなんだか真顔でこっちを睨んでいた。
そばにいるもうひとりの新入社員、新城さんが熱心に話しかけているのに、全く聞こえていないみたいだった。