その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
「失礼します」
窓の外に視線を向けていた企画部長に声をかけると、彼が機嫌よさそうに振り返った。
「おぉ、碓氷。ちょっとそこに座れ」
企画部長に促されて、テーブルを挟んで向かい合うように座る。
「実は、碓氷にちょっと相談があるんだ」
「相談、ですか?」
企画部長からなにか依頼をされるときは、面倒な仕事の場合も多い。
デスクに呼び出されるのではなく、わざわざこんなところに呼び出されたのだから、どんな大変な任務を頼まれるのだろう。
改まったように口調の企画部長を怪訝に見つめると、がははっと少し豪快に声をたてて笑った。
「あー、別に碓氷が警戒するような話ではない」
「はぁ……」
そういえば、広沢くんに似たようなことを言われた。
思い出して曖昧な相槌を返すと、企画部長がテーブルの上で両手を組んで、少し声のトーンを下げた。
「実は、まだここだけの話なんだが。広沢が次の人事異動で本社に転勤することになった」
「広沢くんが……」