その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
「会議室の片付けは俺と確氷さんがやるから、桐谷くんは部長と先に戻りな」
「え、でも……」
新城さんを無視して早足で歩み寄ってくる広沢くんに、桐谷くんが戸惑いの表情を見せる。
「やっぱり、部署への最初の新人挨拶は、部長が先導したほうがいいですよ。ね、確氷さん」
私に同意を求めてくる広沢くんの笑みが、何か企んでいるようで怖い。
「別にそれは拘らなくても……」
「そういうことなので。お願いします、部長。あとでね、桐谷くん」
私の言葉を遮って、広沢くんが桐谷くんの背中を部長のほうへ押しやる。
背中を突かれた桐谷くんは、ちょっと困ったように私を見たものの、最終的に部長に声をかけられて、新城さんとともに会議室を出て行った。
「そんなに片付けがしたいなら、広沢くんにお願いしようかな。私も忙しいし」
部長に新人を押し付けて追い払うなんて、何か魂胆があるに違いない。
広沢くんに後片付けを頼んでしれっと会議室を出ようとしたら、逃げきれずに捕まった。