その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
私は既にその事実を企画部長から知らされてしまっていて、ある程度の心の準備もできている。
もし広沢くんが私に本社異動のことを打ち明けて、「遠距離になっても関係は変わらないから」と言ってくれたら……
今の私はきっと、なにも迷わずに無条件で頷いてしまうだろう。
だけど、私が異動のことを知っているとわかっていてなにも言わないということは……
夕食の洗い物を片付けながらぼんやりと考え込んでいると、突然後ろからぎゅっと抱きしめられた。
「あ、お風呂あがったのね」
ふっと漂ってきた、お風呂あがりの広沢くんの匂いに必要以上にドキッとした。あまりよくない想像をしていたから、余計に。
広沢くんが後ろからくっついてきて離れないから、残っていた洗い物を急いで済ませて手を洗う。
「私も、お風呂入って来ようかな」
少し振り向いて、広沢くんを引き離そうとしたら、彼が私の額にちゅっと唇を押し当ててきた。