その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
「あ、また反応薄い。演技でも驚いたフリすればいいのに。れーこさん、このこと俺が言う前から知ってましたよね」
「うん実は。企画部長経由で」
苦笑いを浮かべると、広沢くんが「やっぱり」と小さくつぶやく。
「だから、れーこさんのその反応は想定内で……もうひとつ、話があります」
広沢くんが私の反応を確かめるようにゆっくりとそう言って、真面目な顔付きでこちらをじっと見つめる。
もうひとつの話。それがきっと、広沢くんが本当に私に話したかったことなのだ。
やっぱり、これが私と彼の最後の晩餐になるのかもしれない。
『本社異動が決まったから、恋人関係は続けられない』
広沢くんから告げられる最悪の言葉を覚悟して、ワンピースのスカートの上で汗で湿った手のひらを強く握りしめる。
覚悟を決めて顔を強張らせる私の前で、広沢くんが上着のジャケットの内側に手を差し込む仕草をみせる。その表情はとても優しくて穏やかだった。