その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
「違……ただ、すごくびっくりしてしまって。その、もしかしたら今日フラれることも想定していたから……」
「なんだよ、それ。俺がどっかの誰かみたいに、本社異動を理由にれーこさんのこと切り捨てるようなやつだと思ってたんですか?」
「そうじゃないけど……」
完全な私の勘違いだったからとても気まずい。
顔色を窺うように広沢くんを見ると、彼が私のことをわざとらしく軽く睨んでから、ふっと笑った。
「れーこさん、手出して。あ、わかってると思うけど、左手ですよ?」
広沢くんに促されるままに、左手の甲を上にして差し出す。
その手の薬指にすっと嵌った指輪のサイズが、びっくりすぎるくらいピッタリで。思いがけなく、涙がぽろぽろと零れた。
「れーこさん、泣いてる」
腰を浮かして私の頬に手を伸ばそうとする広沢くんを静止して、急いで右手で涙を拭う。
「なんか、嬉しくて……」