その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―


「これでもう、逃げられないんで。覚悟してくださいね、れーこさん」

広沢くんが私を見つめて意地悪く目を細める。

その言葉にぎゅっと胸が鳴るのを感じながら、私も繋いだ手を引き寄せて広沢くんの手の甲にキスをした。


「いいの?本当の意味でもう逃げられないのは、そっちのほうだと思うけど」

この先、広沢くんがどうしようもなく嫌になったとしても、私がもうこの手を離せない。

広沢くんの手を握る、左手の指が僅かに震える。

真っ直ぐに広沢くんを見据えると、彼が一瞬驚いたように私を見つめる。だけど広沢くんはすぐに、嬉しそうにくすぐったそうに微笑んだ。


「うん。れーこさんにそれ言われたら、俺もう一生逃げられない」

冗談交じりにそう呟いた広沢くんが、私の額に口付ける。


「そもそも、もうずーっと前から逃げる気なんてないし。だかられーこさんは、安心して俺の隣にいてください」

間近で微笑む広沢くんの言葉に胸がいっぱいになって、私は子どもみたいにコクンと縦に頭を動かした。

< 177 / 218 >

この作品をシェア

pagetop