その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―



「今日は、もうムリ」

恥ずかしいから。

フロントガラス越しに広沢くんを睨むと、彼が一瞬きょとんとした顔をして、それから小さく吹き出した。


「わかりました。じゃぁ、またいつかに期待しときますね」

「しなくていい」

素っ気なく顔をそらして、ドアの窓枠に肘をあてて頬杖をつく。

そのとき、左手の薬指に光る指輪が頬にあたった。

それをわざとぎゅっと強く押し当てながら、レストランでの広沢くんの言葉を思い出す。

彼がくれた言葉も、嬉しくて溢れてしまった涙も、絶対に一生私の記憶から消えないと思う。


< 181 / 218 >

この作品をシェア

pagetop