その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
「今日は、もうムリ」
恥ずかしいから。
フロントガラス越しに広沢くんを睨むと、彼が一瞬きょとんとした顔をして、それから小さく吹き出した。
「わかりました。じゃぁ、またいつかに期待しときますね」
「しなくていい」
素っ気なく顔をそらして、ドアの窓枠に肘をあてて頬杖をつく。
そのとき、左手の薬指に光る指輪が頬にあたった。
それをわざとぎゅっと強く押し当てながら、レストランでの広沢くんの言葉を思い出す。
彼がくれた言葉も、嬉しくて溢れてしまった涙も、絶対に一生私の記憶から消えないと思う。