その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―


「礼ちゃん、今日広沢くんと一緒にうちに来たのは、広沢くんはが礼ちゃんの『彼氏』になったからだよね?」

乃々香が私の手を引っ張りながら、悪戯っぽくそう言ったとき、妹の美耶子の頬がピクリと引き攣った。


「外堀からしっかり埋めてくるなんて、結構あざといですね」

美耶子の声がピシャリと冷たく響いて、一瞬場の空気が凍る。


「み、美耶子?」

「玄関で話もなんだし、どうぞ。お姉ちゃんも」

一見にこやかに思える美耶子の目は、全く笑っていなかった。

「どうぞ」というのは言葉ばかりで、父の背を押すように先に奥へと入ってしまう。


「あの、俺、妹さんに嫌われてますかね?」

「そういうわけではないと思うんだけど……」

顔を痙攣らせて私を見てくる広沢くんに、困り顔で笑い返す。


「あー、違うんです。美耶子、自分よりも先に僕や乃々香が広沢さんと知り合ってたことが気に入らないんですよ。特に乃々香なんて、広沢さんがお義姉(ねえ)さんと結婚するって知って、大喜びでしたから」

私と広沢くんが困惑気味に顔を見合わせていると、誠司くんが小声でこっそり教えてくれた。


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