その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―



『お姉ちゃん、その人、ほんとに大丈夫なの?』

電話越しに聞いた、美耶子の低く冷たい声が今も耳に残っている。

以前、将来的なことも考えて付き合っていると思っていた人に、転勤をきっかけに切り捨てられたことがあるから。それで美耶子は心配してくれているんだと思う。

また、あのときの二の舞になるんじゃないかと。


でも、広沢くんは大丈夫。私はそう思っているから、美耶子が広沢くんに否定的な気持ちを持っていることは、敢えて彼に話さなかった。

最終的に美耶子が広沢くんを認めてくれなくても、彼からのプロポーズを白紙にするつもりはない。

だけど、美耶子が広沢くんのことをわかってくれたらいいなと思いながら、私も家の奥へと足を進める。

私が後を追いかけていったとき、広沢くんは既にリビングの隣の和室に案内されていた。

広沢くんはテーブルを挟んで向かい合うように座った父と話をしていて、その雰囲気は和やかだ。

広沢くんの隣には、乃々香がぴったりとひっつくように座って嬉しそうに戯れている。


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