その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
広沢くんが本社に異動してから、そろそろ半年だ。
実家に報告したとおり、私たちは彼が本社に行く前に籍だけ入れた。
後日そのことを会社に報告したら、部署内……を越えて、支社内は建物ごとひっくり返るんじゃないかというくらい大騒ぎになった。
『企画部の碓氷が部下の広沢と結婚した』
それを聞いた同僚の多くは、「雑すぎるドッキリだ」と笑って、ハナから信じようとはしなかった。
それだけでなく「もし本当なら碓氷さんに脅されたか、騙されてるに違いない」とか「偽装結婚だ」とか、随分と勝手なことまで噂されていたらしい。
でも、部署内に限って企画部長が私と広沢くんの結婚を簡単に報告したり、私が左手の薬指に指輪を嵌めて出勤するようになって。
広沢くんが本社に異動する頃には、私たちの結婚がドッキリでも、詐欺でも、偽装でもないことが、支社内のほぼ全員に認知されることとなっていた。