その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
After Marriage
仕事終わりで自宅に向かう、俺の足取りは軽かった。
乗り継ぎの駅の構内で買ったケーキの箱を揺らさないように、そこそこ早足で家へと急ぐ。
今日からしばらくの間、れーこさんがずっと家にいる。
ガチャリと玄関の鍵を開錠すると、廊下をパタパタと鳴らすスリッパの音が聞こえてきて。
俺はそれが止まるのを待ってから、ゆっくりと玄関のドアを開けた。
「おかえりなさい」
料理中だったのか、エプロンをつけたまま出てきたれーこさんが俺を見上げて笑いかけてくる。
「ただいま」
その笑顔を見下ろして、最高に幸せだなーと思いながら、れーこさんを引き寄せてキスをした。
「体調、平気?」
「うん、平気」
「ケーキ買ってきたよ」
「本当に?ちょうど食べたいと思ってた」
「だと思った」
れーこさん、今朝の情報番組でやってたケーキの特集、無言でじっと見てたから。
そこは言わずにケーキの箱を渡したら、れーこさんは俺を見上げて驚いたように目を丸くしていた。