その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
「何のこと?」
「言ったじゃないですか。油断して優しくしちゃダメだ、って」
低い声でささやいた広沢くんが、耳朶にそっと息を吹きかけてくる。
ゾクリとして僅かに肩を揺らすと、広沢くんが私のことを見て至近距離で微笑んだ。
あぁ、そういえば。さっき、桐谷くんについ笑いかけたからそれで?
自分だって、新城さんにデレデレしてたくせに。
さっきのもやっとした感情が蘇ってきたけれど、自分のほうは何の反省もないらしい。
「これ、明日の午後までにお願いしますね」
「できたらね」
頼まれたら必ず期限までにはこなすようにしているのに、つい広沢くんに対して、小さな声で意地悪く返してしまう。
「お願いします」
それなのに私にだけこっそりと優しい視線を投げかけて離れていくものだから、悔しいけれど少しだけ胸がときめいた。