その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
部下の噂と上司の秘密

I




1時間ほどの残業を終えて帰宅の準備を整えると、新入社員の日報ファイルを持って席を立つ。

既に帰宅して無人になった桐谷くんと新城さんのデスクにそれぞれのファイルを置いていると、少し疲れた顔をした秦野さんに声をかけられた。


「確氷さん。それ、新城さんの日報ですよね?」

「そうだけど」

「私、まだチェックしてないので見せてもらってもいいですか?」

ため息混じりにそう言った秦野さんが、新城さんの日報をとって無造作に開く。


「新城さん、この頃、私の指示したことは適当に処理して、広沢くんの指示ばかり受けてるんです。今日は日報すら、私じゃなくて広沢くんにチェックしてもらってたみたいですし」

「そう」

毎日新入社員の日報をチェックしている私は、そのことに薄々気付いていたけれど、敢えて何の指摘もしてこなかった。

今は新入社員の新城さんが、少しずつでもモチベーション高く仕事を覚えてくれたらいいかな、と思っていたからだ。


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