その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
「適任でないと思っていたら、最初から秦野さんには頼まないわよ」
きっぱりとそう言ったら、秦野さんがほんの少し表情を和らげた。
それから、ちょっとうつむいて泣いてるみたいに笑う。
「確氷さんがそう言うなら、もう少し頑張ります」
「私も、もう少し気を付けてみておくようにするから。困ったらいつでも言いにきて」
秦野さんの前向きな言葉が嬉しくて頬を緩めると、秦野さんが私を見上げて僅かに目を見開いた。
「なんか確氷さん、最近雰囲気が優しくなりましたよね」
「え、そう?」
「桐谷くんや新城さんに対する声のかけ方が、私が新人のときとは全然違います」
「そんなことないでしょう?」
「そんなことありますよ」
秦野さんはそう言うけど、私にはあまり自覚がない。
そういえば、誰かにも最近似たようなこと言われたような……
「こないだ、広沢くんにも似たようなこと言われたわ」
「え?」
「あ、うぅん。こっちの話」
考えて、ふと思い浮かんだ顔に苦笑した。