その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
「どうして、アラーム止めたりしたの?」
周りの乗客に流されるようにしていつもより時間の遅い満員電車に乗り込むと、車内ではぐれないようにずっと私の肩を抱いている広沢くんを睨み上げる。
そんな私の顔を素知らぬ顔でチラッと見下ろした広沢くんは、動き出した電車が揺れるどさくさに紛れて、私を自分の胸へと抱き寄せた。
押し付けられたシャツから漂う広沢くんの匂いに、むせ返りそうになって顔を上げると、彼がキュッと口端を引き上げる。
生意気なその顔を睨むと、彼が私にそっと顔を近づけてささやいた。
「だって、れーこさんが俺のこと誘うから」
「誘ってない」
ついムキになって返すと、横顔に周りの乗客の視線を感じる。
はっとしてうつむくと、頭上で広沢くんがクスリと笑う声がした。
「れーこさん、可愛い。キスしたい」
「やめて」
小声で牽制して、ジッと睨んでやったのに、広沢くんは優しく目を細めて私を見下ろすだけだった。